ミコより愛をこめて/弘田三枝子 (1971年)
弘田三枝子が1971年7月にリリースした全曲洋楽カヴァーのアルバムです。なんと、バカラック・カヴァーを5曲も収録!!
(画像は全てクリックすると大きくなります)
全12トラック中、バカラック作品は5トラック
A1. I'LL NEVER FALL IN LOVE AGAIN (2:43)
A3. THIS GIRL'S IN LOVE WITH YOU (3:56)
A5. RAINDROPS KEEP FALLING ON MY HEAD (3:26)
A6. THE APRIL FOOLS (2:37)
B5. DO YOU KNOW THE WAY TO SAN JOSE (3:10)
弘田三枝子が1971年7月にリリースした全曲洋楽カヴァーのアルバムで、全て英語詞で歌っています。
弘田三枝子(愛称:ミコ)は1947年2月東京生まれ(2020年7月没、享年73歳)。幼稚園の頃にFENのラジオに魅せられて歌手になることを決意。英語の発音の基礎からスパルタ教育を受け、進駐軍のキャンプでポップスやジャズを歌っていたそう。1961年、14歳の時に東芝音楽工業から「 子供ぢゃないの 」(ヘレン・シャピロのカヴァー)でデビュー。翌1962年には各社競作で出された「 ヴァケイション 」(コニー・フランシスのカヴァー)が20万枚のヒットを記録。以後、カヴァー・ポップスとオリジナル曲を並行してシングル・リリース。1965年7月には東洋人歌手として初めて米国のニューポート・ジャズ・フェスティバルに招待され、トリを務めます。まだ18歳ですよ、すごいですね。60年代中盤からはヒットに恵まれず小規模なジャズライブを中心に活動していたそうですが、1969年10月に「 人形の家 」がオリコン1位となり表舞台にカムバックします。
以上はウィキペディア情報に私見を加えて適当に要約したもの。以降は本アルバムの解説から引用します(文:いソノてルヲ氏。原文ママで)。
─ 週刊サンケイの『 なんでもベスト10 』の日本の流行歌手の巻に、ミコも登場しています。社会評論家の村島健一氏は実力と女っぽさで淡谷のり子を、演歌研究家の添田知道氏は東海林太郎を、作曲家の神津善行氏は音程の良い美空ひばりを、劇作家のキノトール氏は西洋ポピュラーの開拓者として笈田敏夫を夫々トップに指名しました。そこでジャズ評論家のいソノてルヲは、文句なしに弘田三枝子をトップに挙げ、次のようなコメントを述べています。 “ 紅白歌合戦を見て、ことしも乞食節の氾濫に辟易しました。国際的感覚では日本の乞食節は絶対通用しません。ここに挙げた人は、なんらかの形で脱日本可能の歌手達です。とくに弘田三枝子は、ラスベガスでナンシー・ウィルソン級のショーの出来る稀有のタレントで、従来の寡欲が惜しまれます。ことしの大飛躍を期待。流行歌次元のヒットとは関係なく彼女を戦後の最優秀歌手に推薦します、云々。” 多少はオーバーな表現もありますが、この一文こそ現在の彼女の立場を的確にとらえていると自負しています。 ─
乞食節って単語、聞いたことないんですけど…。どういう意味なんでしょう。
─ 従来から歌唱力の点で、彼女の右に出る人はいませんでした。「 人形の家 」「 私が死んだら 」をヒットさせ、見事なカムバックをとげ、1970年はものすごいスケジュールを消化しました。ミコのコンサートには必ず同行してMCをしたので、私も70年は彼女のスケジュールにあわせたような次第です。この年は、ミコにとって終生忘れ得ぬ年のはずです。ジャズが好きです。…と格好よく言う歌手は沢山います。(略)ところがミコはちがいます。好きなのはジャズ、やりたいものもジャズ、尊敬する人はエラ・フィッツジェラルド、カーメン・マックレイ、ナンシー・ウィルソン。スジが一本通っています。もう一つ。すべてジャズにたずさわるものの檜舞台、ニューポート・ジャズ祭りに日本人として最初に登場したのが弘田三枝子なのです。ビリー・テイラー・トリオをバックに歌ったミコの可愛らしい姿は今でも語り草になっています。 ─
本アルバムの概要は以下の通り。
─ そして、その立場をより明確にした音楽、それがこのLPです。バート・バカラックと言う現代の英雄作曲家の作品を5曲もフィーテュアし、これにビートルズ、ブラッド・スウェット・エンド・ティアーズ、ジム・ウェッブなどの世界のポピュラー音楽の趨勢をリードする音楽家の作品を取り上げて唄っています。配するに、伴奏を最高のアンサンブルと、モダン・ジャズできたえたフィーリングの良さで、他の追随をゆるさぬ宮間利之とニュー・ハードが担当、編曲は当代一の売れっ子、前田憲男がペンを取っています。言うなれば、ラスベガスで、“ 日本の生んだ世界の恋人ミエコ・ヒロータ ” が登場したと仮定して、その時プログラムを飾るであろう作品集と思って頂ければけっこうです。 ─
バカラックの説明にもかなりスペースを割いていました。
─ 先にも書いた通り、このアルバムは今日、世界のポピュラー・ファンから支持されているバカラック、B.S.&T.、ビートルズ、ジム・ウェッブ等の作品がミコによって歌われているわけですが、12曲中5曲が、バート・バカラック作品です。米週刊誌タイムの表紙になると言えば、これは時の人を意味しますが、1970年の音楽家のタイトルで、バカラックの音楽が極めて詳細に報じられました。バカラックは単なる作曲家ではなく、自らのオーケストラを指揮し、ピアノを弾く演奏家であり、カーペンターズやディオンヌ・ワーウィック、B.J.トーマス等のスターを生み出したタレント・スカウトでもあります。まァ現代のスーパーマンの一人でしょう。彼の作品には、現代のポピュラー・ミュージックのあらゆる要素が取入れられており、ジャズをはじめロックやボサノバ、バロック、イージー・リスニング等の魅力が渾然一体となっているのが特色です。その上、名コンビのハル・ディヴットとのコンビで生み出して来た作品が、常に “ 愛 ”(LOVE)を追求してきた点も見逃せません。サミー・カーンはバカラックを “ 一寸見て歯医者の先生のように見えない唯一の美男作曲家 ” と言ったとか。(ハンサムな歯医者の方ゴメンナサイ。これはアメリカでの話) 美女の話を書きはじめたら美男の話になりましたが、何れにしても、美男、美女がこのLPで貴方にすてきな愛をプレゼントします。 ─
タレント・スカウトのくだりは少々?マークがつきますが、当時の日本におけるバカラック像が窺えますねー。
さて、バカラック作品は前述の通り5曲でカヴァー定番曲ばかり。
A1.「 恋よ、さようなら 」: イントロで怪しげな木管楽器のアンサンブルに面食らっちゃいますが本編に入ったら軽快で小洒落たアレンジにウキウキした気分になります。さすがは前田憲男さん。ミコも曲調に合わせてか軽いタッチで歌っています。
A3.「 ディス・ガール 」: 若干キャバレー臭がするアレンジで歌唱も含めてあまり印象に残らないかなぁ。
A5.「 雨にぬれても 」: ゆったりしたスウィング・バラード調にアレンジ。弾むウッド・ベース、フルートのオブリガート、2コーラス目のゴージャスな間奏、ミコの歌唱も軽くフェイクしたりアウトロではスキャットもあっていいですねー。
A6.「 エイプリル・フール(本アルバムの邦題:幸せはパリで)」: オリジナルのディオンヌ版ベースのふんわりしたアレンジで、悪くはないんですがやっつけ仕事的な感じを受けますねぇ。
B5.「 サン・ホセへの道 」: ビッグバンドらしい派手で楽しいアレンジが最高です。ワウミュートの使い方やトロンボーンのアドリヴソロなんかも効果的です。歌ってるミコも楽しそう。
レコメンドはA1,A5,B5。クレジットを確認したら全12曲のうち2曲だけ(A3とA6)前田憲男さん以外の方が編曲してました。アレンジがイマイチだったのはナルホドそういうことかと納得した次第。
弘田三枝子さんは曲調に合わせて余裕で歌い分けてます。英語の発音も全く違和感ないし。バックの演奏もノリが良くメリハリが効いてます。バカラック・カヴァー以外では、パワフルな歌唱のA4.「 スピニング・ホイール 」やB1.「 ユーヴ・メイド・ミー・ソー・ベリー・ハッピー 」がレコメンドです。
ここからはオマケ。MP3で所有している弘田三枝子のバカラック・カヴァー1曲をご紹介。
弘田三枝子は1965年の洋楽カヴァー・アルバム『 ヒット・キット・ミコ 第1集 』で「 (THERE'S) ALWAYS SOMETHING THERE TO REMIND ME(愛のウエイト・リフティング)」(2:55) をカヴァーしています。英語詞のまま歌ってるんですが、ヒットしたサンディ・ショウ版のほぼコピーなので有りがたみはあまり無いかもですねぇ。
【データ】
『 ミコより愛をこめて 』(英題:FROM MIKO WITH LOVE)
弘田三枝子(HIROTA Mieko)
LP:1971年7月25日リリース (解説:いソノてルヲ)
レーベル:日本コロムビア
番号:JDX-52
Arranged by 前田憲男(A1,A2,A4,A5,B1〜B6)、山木幸三郎(A3,A6)
Vocal - 弘田三枝子
演奏 - 宮間利之とニュー・ハード
発売元:日本コロムビア
定価:¥1,800
※ 日本のAmazonでの取り扱いは無し
« イージーリスニング物バカラック集 残念なヤツ2連発! | トップページ | Danny Williams/Danny Williams (1968年) »
「バカラックの曲がちょっと入ったアルバム」カテゴリの記事
- SOUL/Lena Horne (1966年)(2024.09.29)
- I Who Have Nothing/Tom Jones (1970年)(2024.09.15)
- Marrakesh Express/Stan Getz (1970年)(2024.07.28)
- This Is Time 5/タイムファイブ (1970年)(2024.06.30)
コメント
« イージーリスニング物バカラック集 残念なヤツ2連発! | トップページ | Danny Williams/Danny Williams (1968年) »
あるでお様
一日に何度も失礼いたします。
ダニー・ウィリアムズの前後に弘田三枝子の名前を見つけたので嬉しくなって探しましたら、3曲youtubeにありまして、2022年「弘田三枝子・メモリアル」というアルバムには、A3とA6の2曲が除外されていましたから、あるでお様のレコメンドはさすがです。
https://youtu.be/FrP2GyAfAr0
恋よ、さようなら · Mieko Hirota
https://youtu.be/qKIhGZORnPU?list=OLAK5uy_leyldyPTVxRWnb--9byTFR16g5OW9KhPw&t=16
雨にぬれても · Mieko Hirota
https://youtu.be/0iPbxtwI_iQ?list=OLAK5uy_leyldyPTVxRWnb--9byTFR16g5OW9KhPw&t=28
サン・ホセへの道 · Mieko Hirota
2020年7月に心不全で亡くなられたとのこと、ひょっとしたらCOVID-19だったのかもしれませんね。
投稿: ちたりた | 2024年9月 1日 (日) 14時47分
ちたりた様
あるでおです。コメントありがとうございます!
コメントは一日何度でもwelcomeでございますが、レスが遅いのはご容赦ください🙇♂️。
アレンジの違いは結構大きかったですね。編曲者の技量の差でしょうか。とはいえ、バカラック・カヴァー以外で私がレコメンドにした「 ユーヴ・メイド・ミー・ソー・ベリー・ハッピー 」が落選していますので私のレコメンドも当てになりません😓。
世代的に弘田三枝子さんは私より上で「 人形の家 」もリアルタイムでは聴いてません。ですので、このLPでその歌唱力・表現力の素晴らしさを実感した次第です。
投稿: あるでお | 2024年9月 1日 (日) 17時21分