エレクトーン・ファンタスティック バート・バカラックの魅力/沖浩一トリオ(1970年)
エレクトーン奏者の沖浩一がギターやドラムスを加えたトリオ編成で録音したバカラック作品集です。1970年10月リリース。
(画像は全てクリックすると大きくなります)
A1. I'LL NEVER FALL IN LOVE AGAIN (2:46)
A2. I SAY A LITTLE PRAYER (4:48)
A3. LONELINESS REMEMBERS (WHAT HAPPINESS FORGETS) (2:22)
A4. ODDS AND ENDS (2:28)
A5. WHAT THE WORLD NEEDS NOW IS LOVE (4:12)
A6. THE APRIL FOOLS (3:51)
B1. DO YOU KNOW THE WAY TO SAN JOSE (4:13)
B2. DON'T MAKE ME OVER (2:57)
B3. THIS GUY'S IN LOVE WITH YOU (3:16)
B4. PROMISES, PROMISES (2:52)
B5. THE SUNDANCE KID (1:57)
B6. RAINDROPS KEEP FALLING ON MY HEAD (3:51)
収録時間約40分
エレクトーン奏者の沖浩一がギターやドラムスを加えたトリオ編成で録音したバカラック作品集です。
─ 1958年に日本で開発された電子オルガン、エレクトーン(注1)は、今や電子オルガンの代名詞となってしまった感がある。このレコードで編曲・演奏をしている沖浩一(注2)も大阪学芸大学の特設音楽科でピアノを専攻するかたわら、エレクトーンに興味を持ち、オルガニスト斉藤超に師事、独特の奏法を作りあげた。このレコードで彼は、主に、エレクトーンD-2B型(注3)を自ら改造した楽器を用い、彼のトリオで独特なサウンドの演奏をくりひろげ、オリジナルなバカラック像を作り出している。 ─ (ライナーノーツ「 このレコードについて 」より)
本アルバムは、バカラック初来日コンサート(翌1971年4月)の約半年前…1970年10月のリリース。日本人演奏者によるバカラック・カヴァー集としては比較的早い時期にリリースされました。参考※までにバカラック来日以前に発売されたアルバムをリリース順に紹介します(リンクは拙ブログ記事に跳びます)。なお、キム・サン・ヒーのアルバムは、ヴォーカル以外は全て日本人による演奏であるため掲載しています。※リスト作成:土龍団
リリース | アルバムタイトル | アーティスト |
1969/ 3/10 | SADAO PLAYS BACHARACH & BEATLES | 渡辺貞夫とオールスターズ |
1969/11/25 | スターゲイザース・バカラックを歌う | 岡崎広志とスターゲイザース |
1970/ 2 | サン・ホセへの道≪バート・バカラックの世界≫ | 稲垣次郎とリズム・マシーン |
1970/ 9 | バック・トゥ・バカラック | ロック・アカデミー弦楽四重奏団 |
1970/10 | エレクトーン・ファンタスティック バート・バカラックの魅力 | 沖浩一トリオ |
1971/ 2 | 田畑貞一ドラムの世界VOL.3 バート・バカラックに挑戦 | 田畑貞一 |
1971/ 3/25 | Sings Tom Jones & Burt Bacharach | キム・サン・ヒー(Kim Sang Hee) |
エレクトーンの沖浩一を中心に、ドラムス(長谷川昭弘)、ギター(水谷公生, 川崎燎)を加えたトリオ編成。
今ではエレクトーンに当たり前に備わっているオートリズム機能(リズムボックスのこと)ですが、1972年に初めてオートリズム付きエレクトーンが世に出るまではオートリズム無しで演奏されていました。エレクトーンは右手鍵盤でメロディを、左手鍵盤と足鍵盤でリズム伴奏をするのが一般的ですが、エレクトーンだけだとリズムが甘くなるんですね…。当時プロのプレイヤーはコンサートではドラマーと一緒によく演奏していたそうです。本アルバムではドラムスに加えてギターも参加して(このギターがほぼリズムを刻むことに徹しとるんですわ)リズムをサポートしています。そのおかげか、左手鍵盤は和音の他にメロディ(音色を変えて右手鍵盤とハモったり)やオブリガートを弾くことも多くアレンジの幅を広げています。
なお、ダブルジャケットの見開きは ↑ こんな感じ。クリックして拡大すればなんとか読めると思います。ライナーノーツの大半はバカラックの説明で、他には前掲した「このレコードについて」のみ。取り上げた楽曲についての解説は一切なく、演奏者の顔写真もなし。ただし、来日したハル・デイヴィッド夫妻の写真(拡大しました)は貴重かも。1970年7月だから万博でも観に来たのでしょうか?
全12曲はバカラックの有名曲が殆どですが、A3.「 ロンリネス・ハッピネス(本アルバムの邦題:愛は想い出)」、A4.「 オッズ・アンド・エンズ 」のようなレア曲もあります。後者A4.はディオンヌ・ワーウィックの1969年7月シングルA面曲なのでまだわかりますが、前者A3.はディオンヌ・ワーウィック1970年3月リリースのシングル「 LET ME GO TO HIM 」のB面曲。1970年4月リリースのアルバム『 I'LL NEVER FALL IN LOVE AGAIN 』に収録されているとはいえ決してヒットした曲ではありません。沖浩一さんの琴線に触れたんでしょうねー。B6.「 雨にぬれても 」以外にB5.「 サンダンス・キッド 」も演ってるのは映画『 明日に向って撃て!』の日本公開直後だからかな?
A面の曲は比較的大人しいアレンジが多い印象。そんな中、A2.「 小さな願い 」ではエレクトーンのアドリヴに加えて本アルバム中で唯一となるギターのアドリヴが熱いです。あと、A6.「 エイプリル・フール 」のイントロ/アウトロは独特でちょっとシュールな気もします(笑)。
一方、B面は意欲的なアレンジが目立ちます。B1.「 サン・ホセへの道 」の面白い音色はモーグっぽい。B2.「 ドント・メイク・ミー・オーヴァー 」はハモンドオルガン的音色でブルース風。B3.「 ディス・ガイ 」ではブロック奏法でメロディを弾き、スウィングのリズムで中間部〜後半のアドリヴも含めてジャズオルガンの香りがプンプンします。B4.「 プロミセス・プロミセス 」でのグリッサンド奏法などを駆使したノリに乗った演奏は私的レコメンド。B6.「 雨にぬれても 」ではマンドリン効果(マンドリンとそっくりの音色が出るというのではなく、マンドリン奏法に似た、断続的な音を発するエフェクトの一種)をメロディにかけて雨粒の雰囲気を出しています。エレクトーンならではの面白い音です。
エレクトーンによるバカラック・カヴァー集は、以前拙ブログでも斎藤英美の『 プレイ・バカラック 』(1971年リリース)を紹介しています。ハモンドオルガンによるバカラック・カヴァー集も、Ena Bagaの『 The Happy Hammond Plays The Hits Of Burt Bacharach 』(1972年リリース)、Patrick Saussois & Rhoda Scottの『 THE LOOK OF LOVE 』(2010年リリース)を紹介しています。それぞれアレンジの方向性が全く違っていて面白いなぁと思います。
(注1)エレクトーン:ヤマハ株式会社が製造発売する電子オルガンの商品名。エレクトーンの開発が始まったのは1952年(昭和27年)。1958年(昭和33年)日本楽器(現:ヤマハ)、日本電気、NHKのそれぞれの技術陣が協力して、真空管方式による国産初めての電子オルガンを試作、銀座ヤマハホールで公開した。「1958年に日本で開発された…」とあるのはこのことを指すのであろう。1959年(昭和34年)に最初のエレクトーンD-1型が発売された。なお、商品としては日本ビクターから1958年に発表されたEO-4420型が日本初の電子オルガンである。
(注2)沖浩一:1940年生まれ(2022年12月8日没、享年82歳)、大阪府出身のジャズ・オルガン/エレクトーン/シンセサイザー奏者。1966年の第3回エレクトーンコンクール本選会の演奏部門シニアで第1位。なおこの時の審査員は芥川也寸志、朝比奈隆、外山雄三、山本直純、川上源一(当時の日本楽器社長)など錚々たる顔触れであった。1966年に日本テレビ系列で毎週木曜の夕方に全国放送された『 エレクトーン教室 』のエンディングで、当時活躍したプレイヤーの道志郎、斎藤英美などに混じってゲスト出演し演奏を披露。60年代から70年代にかけてレコードも多数リリース。1977年にペレの引退試合が大阪と東京で行われた際には東京会場で演奏した。東京スカパラダイスオーケストラの沖祐市の実父でもある。
(注3)エレクトーンD-2B型(ヤマハ公式サイト エレクトーンの変遷):発売期間 1967年6月〜1971年4月。価格 ¥395,000。多くの人に愛された機種で、1971年に製造が停止されて以降も数年にわたって中古市場で引っ張りだこ。人気の秘密は音の美しさにあったよう。基本的には音の立ち上がりが速い、と評価されていたが、沖浩一はD-2Bに満足しきっていたわけでもなかった。 ─ D-2Bはよく使いましたが、ベース(足鍵盤)の音はサスティンを切っても甘かった。それで、サスティンは効かなくなるけど、パチッと音が出るベースにするには、ただ一ヶ所ペンチでプツンと切ればいいと。そういうことをやって、楽しかったですね ─ 沖浩一は、コンサート会場のD-2Bを本番前にプツンと改造しては、あとで元に戻して帰ったそう。本アルバムも、恐らくサスティンの回路を切った改造D-2Bのサウンドと思われる。
(注1)〜(注3)の参考文献:エレクトーン雑学班/編著『 知ってるようで知らない エレクトーンおもしろ雑学事典 』(2009年、ヤマハミュージックメディア)
ここからはオマケ。MP3で所有している沖浩一のバカラック・カヴァーをご紹介。
沖浩一は豪州/ニュージーランドで1970年にリリースしたアルバム『 Incredible Organ... 』で「 雨にぬれても 」(3:29)をカヴァー。アレンジの構成は『 エレクトーン・ファンタスティック バート・バカラックの魅力 』と同じですが、1970年発売のエレクトーンEX-42型(ヤマハ公式サイト エレクトーンの変遷)によるソロ演奏で、音色の設定も異なります。ドラムスやギターがいない分自由に演奏できるからかテンポも若干速く、より表現力が豊かな演奏だと思います。
沖浩一は1971年にリリースしたアルバム『 エレクトーン・ファンタスティック 沖浩一の“ロンドンの休日” 』で「 THE LOOK OF LOVE(恋の面影)」(3:06)をカヴァー。英国や豪州では『 Yamaha Superstar! 』というタイトルでリリースされました。エレクトーンEX-42型とドラムス、ギターという編成。沖浩一のエレクトーン演奏はとてもハード。ジャズオルガンですわ、これは。レコメンドですねー。
【データ】
『 エレクトーン・ファンタスティック バート・バカラックの魅力 』 (英題:Electone Fantastic - Burt Bacharach Song Book)
沖浩一トリオ
LP:1970年10月リリース
レーベル:CBSソニー (JP)
番号:SOND-66041
価格:¥1,800
Produced by ?
Arranged by 沖浩一
Drums - 長谷川昭弘
Guitar - 川崎燎 (A1〜5, B1,5,6)、水谷公生 (A6, B2〜4)
Organ - 沖浩一
※ 日本のAmazonでの取り扱いは無し
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